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photos & text: tranlogue associates
2011年7月9日(土)、10(日)の2日間、房総半島の最南端、南房総市にあるガンコ山ツリーハウスヴィレッジにて、里山や田畑を荒らす獣害対策の一貫として、イノシシの狩猟ノウハウを実地で伝授する日本初・猟師養成塾『シシ狩りマスター』が開催されました。銃を使わず「括(クク)りワナ」でイノシシを捕まえ、肉をいただくと聞き、いま森で起きている現実をこの目と体で確認しよう、とジャーナリスト魂(野次馬根性?)に火を点けられ受講して来ました。
元々千葉県内にイノシシはいませんでしたが、ハンティング目的でブタとイノシシを掛け合わせて山に放ったのが爆発的増加の原因とのこと。自然界のバランスを崩すのも保つのも人間次第、という一面がここにも見られました。それでは次の課題として、自然界のバランスを保つために捕獲したイノシシをどうするか?
「人が食べる」が1つの答えです。
ところで近年、およそ40%という食料自給率の低さが問題視されています。しかし、主食用の米はほぼ100%、野菜は80%以上ですから、ベジタリアンであればほぼ自給できている、と言えそうです。大きく自給率を下げているのは、牛肉などの肉類(飼料自給率を考慮すると11%)とその餌(25%)、そして食用油(14%)なのです。元来日本食文化にはなく、生活習慣病の原因でもあるこれらの輸入食材に依存する生活が食料自給率を下げている、と書き換えることもできます。
増え過ぎて森の木々や人に襲いかかるイノシシを捕獲しておいしくいただくことは、日本人が自然とともに生きていた時代の、伝統文化だったのではないでしょうか!?
『シシ狩りマスター』は、失われた伝統文化を垣間見せ、再生する知恵と技を教えてくれました。

▲まずはガンコ山マスターの平賀さんのガイダンスで、クワガタ獲り、高木に吊られたブランコ乗りなど、軽く準備運動を。そして森に入り、森の進化(自然遷移)についてレクチャーを。ガンコ山では、森が誕生したばかりの先駆種の群生から、森の生長の最終段階の極相種の群生までを観察できます。ところで森は、増え過ぎたイノシシの個体調整を行なうために木々の間で、イノシシの餌となる実を減らす「一斉同調」を行なうそうです。森は戦略的に生きてるんですね!
また現在、イノシシは森の生態系を構成する一員としての位置を占めておらず、人がイノシシを食することによって個体調整が行なわれた場合に初めて、人を含む森の生態系の一員になる、というお話はとても興味深いです。

▲シシ狩りマスターの戎井(エビスイ)先生による「括りワナ」実技講習が始まりました。地元南房総市の建築士で大工さんの戎井先生は、3年前から猟師に。今ではイノシシの習性を熟知し、捕獲後の解体まで手掛ける貴重な人物です。ところで狩猟を行なうには、この養成塾とは別に狩猟免許の取得が義務付けられています。

▲狩猟専用ワイヤーを落とし穴の周囲に収め、イノシシが脚を落とし穴に踏み入れると、ワイヤーで脚を締め上げる仕掛けです。

▲熱心に受講する参加者。イノシシに農作物を荒らされて困り果てている地元農家。ジビエなど季節の希少食材としてイノシシに注目するレストラン関係者。農林水産情報に係るメディア関係者。通勤途中でイノシシの被害を警告する看板を見るに付け「捕まえてやる!」と思い立った医療関係者。「農業体験の後は狩猟だ!」と考え、ネット検索で辿り着いた金融関係者。そしてエコロジカルな暮らしを実践、提案している私。7名の参加者のうち3名は、すでに狩猟免許を持っていますが、このように実地で狩猟を教わる機会はなかったそうです。

▲森に入って獣道に「括りワナ」を仕掛けます。写真右端のブルーシートに乗って作業することで、獣道に人の痕跡を残しません。仕掛けには、イノシシが倒木をまたいだ先に落とし穴を仕掛けるなど、戎井先生のノウハウが凝縮されています。

▲ワナを仕掛けたら必ず、人にその存在を警告する看板を立てます。人や木材の臭いが消えていればイノシシには気づかれないそうです。



▲夕食は猪肉づくし料理を堪能。写真上から、シシ鍋用の出汁を取るためのガラ(肋骨、背骨、腰骨)。出汁を取って骨に残った肉も柔らかく、独特の味と香りがあって美味しい。写真中は、背ロースのブロック。白い背油と真っ赤な肉のコントラストが猪肉ならではの美しさ。写真下は、背ロースの焼き肉。肉も油もしっかりした歯ごたえがあって旨い。鹿や野うさぎなどジビエを堪能する食通には、これくらいの歯ごたえや味、香りの特徴がなければ物足りないに違いありません。ハンバーグしか食べられない子どもの味覚とは正反対の世界。この他、山桜のチップでスモークした前足の薫製など、大自然からいただいた命に感謝しながら堪能させていただきました。すべて戎井先生の捕獲、解体、調理によるもの。
また夕食後には、戎井先生が「括りワナ」で捕獲したイノシシを、自ら沢で解体する様子を録画したDVDを見て学びました。こうすれば新鮮、衛生的でおいしい肉を短時間に取ることができる、といった納得の内容でした。

▲2日目、梅雨も明けカラッとして、吹き込む風が心地よい朝のラウンジ(東屋?)で朝食をいただきました。ここ南房総でも放射能を心配する観光客の減少が著しく、例年の9割以上の減少という深刻な状況との話題も。子連れの観光客は「子どもに何かあっては取り返しがつかない」という思いと、おそらくは「子どもの心配をしながら遊ぶのは、かえってストレスになる」と考えて、遠出を控えているのではないでしょうか? 原発事故は農業分野ばかりでなく、計り知れない莫大な被害を東日本一円に撒き散らしているようです。


▲朝食後に参加者は、各自「括りワナ」を仕上げました。詳しいワナの仕組については、戎井先生の『シシ狩りマスター』に参加して会得するか、専門書などでご確認ください。

▲昨日森に仕掛けた「括りワナ」を見に行きましたが、残念ながらイノシシはかかっていませんでした。しかし近くには、最近イノシシがタケノコを食い荒らした生々しい跡が残されていました。

▲昼食にはガンコ山マスター直々に、特性ドラム缶釜によるピザを焼いていただきました。季節の夏野菜に猪肉の味、香りが深みを与えてくれます。

▲自作のワナや、ヤリなどの道具を手にした参加者とスタッフ。皆さんそれぞれのフィールドで狩猟や猪肉料理、自然と生きることについて実践され、後日談を聞かせていただけるのが楽しみです!
▶日本ジビエ振興協議会設立とジビエ料理試食会についてはこちらから
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