《2018年6月》デジタルサイネージ ジャパンで見つけた次の暮らしのデザイン
movie & photo: Motohiro SUGITA + Tranlogue Associates
text: Shizue INOUE + Tranlogue Associates
2018年6月13日(水)〜15日(金)、幕張メッセの国際展示場/国際会議場において、『デジタルサイネージジャパン 2018』が開催されました。本展は、『Interop Tokyo 2018』『Connected Media Tokyo 2018』『ロケーションビジネスジャパン 2018』『APPS JAPAN 2018(アプリジャパン)』と同時開催された、デジタルサイネージの最新動向を伝える展示会です。メディアを通して次の暮らしをデザインするトランローグは、出展社を訪ね、最新動向を取材してきました。
富士キメラ総研の「デジタルサイネージ市場総調査 2017」によると、デジタルサイネージ市場は年々拡大し、2025年には3708億円になると予測されています。本展示会では、デジタルサイネージでコンテンツを配信するだけでなく、マーケティングに活用する提案が着実に増えているようです。タッチパネル式ディスプレイにおいては、操作感に優れたものがいくつも見られました。インパクトのある新たなデバイスの出展もありました。今後のデジタルサイネージの進歩に、引き続き期待できる展示会でした。
HYPERVSN™|Kino-mo
会場内で多くの来場者が足をとめていたのが、画期的なホログラム技術を用いてリアルな3Dビジュアルを投影する、イギリスKino-mo社のデモンストレーション。立体的な映像が空中に浮かんでいるようで、その仕組みに興味をひかれていました。複数のライトが埋め込まれた十字形のバーが回転軸に取り付けられ、プロペラのように回転することで3Dビジュアルを再現します。プロジェクションユニットを複数組み合わせ、スペースに応じて垂直・水平に設置し、インパクトのあるPRができます。ARやAI技術との連携など、ソフト面で進歩を感じるものが多いなか、ハード面で新しさを感じられるものでした。設置はユニットひとつから可能。今年の9月頃に国内で発売予定とのこと。高輝度かつリアルなビジュアルで華やかさがあり、構造の不思議さと相まって、デジタルサイネージに新風を吹き込んでくれそうです。
Windgraphy®|KOA
『Windgraphy®』は、センサーを利用して、風速を同時に多点で計測し、データ化や見える化をする同社の独自技術です。上の動画では、自発光タイプとプロジェクションタイプをデモンストレーション。自発光タイプは、パネルに埋め込まれたセンサーが風を感知すると、風の速さに応じてLEDが色を変えて点灯します。プロジェクションタイプは、センサーが埋め込まれたスクリーンに、捉えた風の速さに応じてインタラクティブな映像が投影されます。「METoA Ginza」(三菱電機の技術やサービスに触れることができるイベントスクエア)で今年1月に行なわれた、風をテーマにしたイベントで採用されました。また現在、ケーブルに風速センサを配置した多点風速測定システムの用途開発を行なっているそうです。ゲームや空間演出だけでなく、IoTや気流測定、各種シミュレーションなど研究開発での利用もできるとのこと。今後広がるIoT社会で、効果的に活用されることを期待します。
infoverre®|AGC
『infoverre®』は、AGCが開発した樹脂と貼合技術を用いて、液晶ディスプレイをガラスに直接貼り合わせています。ガラスに直接貼り付ける構造のため筐体や架台が不要。また視認性にも優れています。上写真のガラスの厚みは24mm。活用方法のひとつとして、電車の窓ガラスにinfoverre®を取り入れる提案がされていました。空間に浮かんだようなすっきりとしたデザインが、好印象です。
ミナトホールディングス
上写真右側に写る2階建ての建物は、『G-Smatt Cube』。LEDを挟みこんだガラスユニットをコンテナの壁面にはめ込み、コンテナをブロックのように組み合わせてイベント空間やショップなどに活用できます。LEDや回路が見えないため、ガラスのクリアな状態をそのままに、映像を映します。設営が容易でスピーディに行なえるため、期間限定のイベントやショップに最適です。
赤外線カメラ方式の超大型タッチパネル。赤外線カメラが2箇所にあり、3角測量方式で計測しています。高速に追従するため操作感が非常に滑らかです。ノーマルタイプは200インチまで。カスタマイズすれば、大きなサイズにも対応可能。某テレビ局の天気予報でも採用されているそうです。
ポルトガルDisplax社のタッチパネルテーブル『Skin Ultra』。100点のマルチタッチ式です。ミナトホールディングスは、国内販売の専属契約を結んでおり、同社でカスタマイズにも対応しています。今回は、テーブル上に置かれた、オブジェクトタグと連携した活用を提案していました。商品などのオブジェクトにタグを取り付け、オブジェクトを動かすことでインタラクティブにコンテンツを表示します。小売店や飲食店での活用を想定しています。タッチパネルのみとは異なった、印象的なユーザー体験をもたらすツールといえそうです。
New Concept Cart SC-1|SONY
4Kディスプレイ、4Kカメラ、5Gアンテナ、センサーなどを搭載し、車型のデバイスとして未来の交通スタイルを提案する『New Concept Cart SC-1』。開発の中心を担うメンバー2人は、もともと携帯電話の商品企画やメカ設計を担当。「自動車にスマホの技術を搭載するのではなく、スマホ自体が人を乗せて走れるようにしよう」というコンセプトのもと、開発されました。カメラで解析した人物情報に合わせ、5G通信によりクラウドから広告やコンテンツを配信したり、クラウドを介して、遠隔からの運転・走行も可能です。またAR技術により、超高感度カメラセンサーで捉えた周囲の映像に架空の映像を重ね、現実を超えた映像体験を得られます。車が単なる移動手段ではなく、移動自体がわくわくする体験に変わりそうです。
SONY
SONYのテレビ『ブラビア』を利用したデジタルサイネージ。HTML5ブラウザを搭載しており、セットトップボックスが不要。サーバーからデータを取得してリアルタイムで表示できます。例えばオフィスでは、営業成績や勤怠情報といった、Web上で管理されている情報をディスプレイに表示するなど、サーバー上にある業務データをサイネージに二次利用できます。オフィスで見える化することで、社内全体に周知徹底がはかれます。高精細なため、細かな文字も見やすく表示されます。工場では、ラインの生産進捗やトラブル状況などをリアルタイムに表示。迅速な対応が求められる場にも安心です。
pdc
pdcのブースでトランローグが注目したのは、ロボット型通信端末『Sota™』と連携したデジタルサイネージの提案。NTTと提携したシステムです。デジタルサイネージに表示されているコンテンツに合わせて、ロボットがプレゼンテーションを行います。例えば、ディスプレイで表示されている内容を、ロボットが他言語で案内したり、飲食店の店舗案内表示に合わせて、営業時間を補足説明するなど、使い方はさまざまです。親しみやすいロボットがちょこんと立っている姿に安心感をおぼえ、来訪者に楽しさもアピールできそうです。
パナソニック
パナソニックでは、空港を再現したブースづくりがされていました。大型のプロジェクションサイネージや、災害などの非常時に情報配信する非常放送連動サイネージ。サイネージにスマホをかざし、人の目では見えない光信号を受信してスマホに詳細情報を表示する『LinkRay™』など、同社の製品・技術などを紹介。また、ヤフーと提携した災害時の避難情報案内では、災害発生時、サイネージに『Yahoo!防災速報』アプリのダウンロードと設定の手順が表示される様子を紹介。サイネージに具体的な避難指示や情報を配信するのではなく、アプリのダウンロード案内を流すのは、一見手間に思えますが、サイネージを見ている人それぞれによって、知りたい情報など状況が異なるからだとか。『Yahoo!防災速報』では地域の設定などができるため、各自に合わせたより細かな配信ができます。現在は、避難情報等の必要な情報や、いま取るべき行動を確認できる仕組みについて両社で検討を進めている段階とのこと。さらなる安心につながる仕組みづくりに期待します。
DIGITAL BANK™
ファーストフードなどでオーダー、決済ができるキオスク型のデジタルサイネージ。サイネージに表示されたメニューから注文したい商品をタッチして選び、オーダーボタンを押すと注文することができます。クレジットカードや電子マネーによる決済をサイネージで行い、オーダー処理が済むと情報がキッチンに届きます。サイネージから出て来たレシートをカウンターに持っていき、商品と引き換えます。現在は韓国の現代百貨店に導入されているそうです。機器やシステムをつくっているのは、ヒュンダイ。DIGITAL BANKはヒュンダイと提携し、国内販売を行なっています。飲食業の人手不足が深刻ななか、解決の一助になりそうです。
WiCanvas|Wistron
ICT関連機器をOEMとして大手メーカーに供給しているWistron。今回出展していたディスプレイ『WiCanvas』シリーズは、ベゼルの幅が約1センチと狭く、また厚みも薄く背面の出っ張りがないため、壁掛けにすると壁と一体となり非常にすっきりとしています。インテリアに馴染みやすく、さまざまな場面で活用できるのではないでしょうか。複数のディスプレイを並べた演出でも、ベゼルが気にならず端正な印象です。ディスプレイにはOSを搭載し、クラウドからWi-Fiでコンテンツを配信。音声はBluetoothでスピーカーにつなげられます。複数のディスプレイにひとつのコンテンツを映す場合は、クラウドからそれぞれのディスプレイに信号を振り分けて配信しています。
Phantom®|Life is Style
LED光源のついたブレードを高速回転させることで3D映像をつくり出す『Phantom®』。500グラムと軽量で、コンセントに差し込むだけで可動するため、手軽に導入できます。目新しさと華やかさで注目を集め、SNSでの拡散も見込めそうです。ピストル形の持ち手にユニットを取り付けるなど、クールでインパクトのあるデモンストレーションに、多くの人がキャッチされていました。
Extimer®|ジオネクサス
フードコートで、注文した料理を待つ間に渡される呼び出しベルに、デジタルサイネージ機能を持たせた端末が『Extimer®』。イオンなどで導入済みだそうです。待ち時間に広告などの動画を配信することで、高い視聴率がのぞめ、来店客に効果的にプロモーションできそうです。動画が終了するとアンケートを実施し、マーケティングに活用することも可能です。2018年度中には、顔認識機能をつけ、利用客の性別、年齢といった属性や、さらには感情を分析してクレーム削減やサービス向上につなげるサービスをリリース予定。またNFC(近距離無線通信)によりスマホと連携したクーポンの発行や決済などの機能もリリース予定とのこと。呼び出しベルとしてだけでなく、利用客が端末を通して席から料理の注文を行なったり、美術館など作品の前で画面をタッチして説明を流すなど、多彩な用途を見込んでいます。
TechnoVision|テクノフェイス
プロジェクターで投影した映像を、ゲームコントローラーを使用して補正できるシステム『TechnoVision Warp One』。プロジェクターを低い位置や斜めに設置して床に投影するとゆがみが生じますが、このシステムは市販のゲームコントローラーでゆがみを直感的に補正することができます。低い位置から投影すれば影が出来にくい効果も。設置スペースに制約がある場合に、特に活用度が高そうです。
BeeSight®|エイコム
顔認識マーケティングツール『BeeSight®』。カメラで捉えた人物の性別や年代、表情、視聴者の向いている方向、服の色などの情報を収集・分析し、マーケティングに活用できます。静止画、動画に対応し、視聴者の属性に合わせてコンテンツの出し分けが可能です。表情の分析もできるため、視聴者の気分に合わせておすすめのコンテンツを配信したり、来訪者の笑顔度をランク付けしてコンテストを行なうといったエンターテインメント活用も。また、「ピープルカウンター機能」を利用すれば、通過した人数を、顔認識に使用するカメラセンサーで計測できるため、通行人数と視聴者属性の取得を同時に行なえます。表情まで読み取ることで、より質の高い顧客満足度獲得を目指せそうです。
たしてん
立体視デバイスやソフトウェアの研究・開発をしているたしてんでは、裸眼で立体映像が見られる『たしてんインタラクティブ』をデモンストレーションしていました。現状のグラスレス3Dディスプレイが抱えている課題を、ソフトウェア技術でカバーして立体映像を実現。あらかじめレンダリングしたCG動画再生ではなく、リアルタイムに3DCGを立体視表示します。キネクトと組み合わせることで、ディスプレイに触れることなく映像を操作することも可能です。グラスレスによりストレスフリーで活用できるため、広告、ゲームのほか、技術習得のための研修では実用度が高そうです。
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