photo & text: Motohiro SUGITA + Tranlogue Associates
2015年11年28日(土)、29日(日)の2日間、渋谷のヒカリエホールにて、 地方創生まちづくりEXPO“まちてん”が開催されました。まちてんには、日本全国からまちづくりをリードするイノベーターが集結。カンファレンス、トークセッション、ミニセミナー、展示ブース、大交流会を通して、それぞれの取り組みを発信しました。世界で最初に少子高齢化し、経済や社会の衰退が語られる日本から世界に向けて「まちづくりイノベーション」を発信するプラットフォームを目指しているようです。主催は「まちてん実行委員会」(委員長/総合プロデューサー:谷中修吾さん)。運営事務局をメサゴ・メッセフランクフルトの日本法人が担当している点もイノベーティブと感じます。
メディアを通して次の暮らしをデザインするトランローグは、
会場に出展社を訪ね、取材しました。

▲主催者によって日本を代表する30人に選ばれたまちづくりイノベーターによる“カンファレンス”。上写真は、カンファレンス全6編のうちの「New Wave編」に登壇した株式会社イグジットフィルム代表取締役の田村祥宏さんのショートプレゼンテーション。テーマは、「地域とクリエーターの新しい共創モデル」です。プロジェクト『KUROKAWA WONDERLAND』は、熊本県阿蘇郡南小国町・黒川温泉郷を舞台に、住民とさまざまなジャンルのクリエイターによる、失われかけている民間芸能などを再解釈したプロモーションビデオの制作・発表を通して海外に訴求することが目的。海外で著名な数多くの賞を受賞し、黒川温泉郷も、参加したクリエイターも見事に海外デビューを果たしました。彼らが突き抜けているのは、「予算0円」「黒川のためでなく、自分自身のために参加できる人だけ参加してほしい」という条件でスタートし、貫徹した点ではないでしょうか。潤沢な予算があっても、有名クリエーター任せでも、これほどの成果は得られなかったかも知れません。

▲町民の約96%が帰還困難になっている福島県双葉郡大熊町の「ふるさとの記憶」模型復元プロジェクト。住民は模型上に、メッセージを書き込んだ「記憶の旗」を立てました。企画・構想は、建築家で神戸大学工学部建築学科准教授の槻橋修さんと研究室の皆さん。縮尺1/500の模型を使って、失われた街を復元し、その土地で長い年月をかけてつくられた街並みや人々の記憶を保存し、継承していくことを目指しているそうです。新たなスタートのために過去を整理する。人も都市も先へ進むために大切な一歩のようです。

▲出展社パンフレットより。起業志民プロジェクトと岩手県八幡平市が主催する『スパルタキャンプ』は、自由な働き方をしたい人を対象に、無料でプログラミング技術を学べるスクールです(交通費等の実費は自己負担)。例えば『【Swift編】 in 八幡平市』では、「知識ゼロからiPhoneアプリが作れる!」をキャッチフレーズに、全7回実施されたとか。プログラミングの経験がまったくなくても参加でき、最終課題テストの合格者に対して転職をサポートしたり、起業するためのシェアハウス兼シェアオフィスを提供するなど、バックアップ体制も整っているそうです。また、同じ志をもつ仲間がたくさんできることも本プロジェクトのメリットのようです。今世間では、インターネットとICTを武器に地方へと移住してビジネスに成功した事例を見聞きします。八幡平市がソフトウェア開発の一大拠点になる日も近いかも知れません。

▲“ 猟師は里山保全者だった!! ” をキャッチフーズにさまざまな獣害対策ソリューションを提供する『猪鹿庁(岐阜県郡上市)』による展示・プレゼンテーション。彼らは、一般社団法人ふるさとけものネットワークに加盟し、獣害対策に係る活動を展開しているそうです。「里山に生きる」を活動理念に、「新しい農作物被害対策の提案と実践」「猟師の6次産業化による担い手育成」という2つの活動方針のもと、山肉自給農家倍増計画、猟師学校、捕獲檻の製作・販売、イノシシ・シカ肉の商品化、エコツアーなどを手がけているとか。彼らがユニークな点は、ブランディングとも言える表現手法を用いて、ウェブサイトやカタログなどで独自の世界観をつくり上げ、ライフスタイル全般に対して発信している点ではないでしょうか。

▲“年貢を納めて村民になろう”がキャッチフーズの『シェアビレッジ町村』。これは、秋田県五城目町字町村にある茅葺古民家の9部屋をシェアする宿泊施設であり、また新しい村づくりプロジェクトの起点でもあります。家屋は、築130年を越え、古民家写真集の表紙を飾るほど立派でありながら、解体も検討されていたとか。利用者は、初めに年貢(登録料)3,000円を支払います。1泊1名の宿泊料金は、大人3,000円。茶の間と板間の貸切で7,500円、とリーズナブルなようです。宿泊のほか、村民だけが都市部で集まる定期開催飲み会「寄合」。お花見、蛍観賞、紅葉狩り、茅葺の葺き替え・・・などのイベントで「里帰」。年に一度の村祭りの夏フェス「一揆」、といった楽しいネーミングのプログラムも用意されています。今後『シェアビレッジ』は、1つの家を多くの人で支える1つの村に見立てて全国に展開し、「100万人の村」づくりを目指しているそうです。十分な潜在ニーズがあることが予想されるため、どこかのタイミングで一気に普及する日も、そう遠くなさそうです。

▲『遠野パドロンブランディングプロジェクト』は、地域の農業ビジネスの創出と被災地域の活性化を目指す「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト(以下農業トレセン)」の一環として開発されました。「パドロン」は、スペイン野菜でピーマンに似ていますが、甘みがあり、とろっとした食感が特徴。スペインでは素揚げして塩で食べるのが一般的とのこと。他方、農業トレセンは、東北の農業経営者と、「丸の内朝大学」の「農業復興プロジェクトメンバーズカリキュラム」受講生の相互提携によるプロジェクトです。プロジェクトの中心人物でアサヒ農園の吉田さんは、農業トレセンで1年間学びながら、生産量を拡大し、東京でプレゼンを行い、見事キリンシティでのフェアを獲得。“ビールに合う新おつまみ・遠野パドロン”として39店舗での取扱いがスタートしました。一人ひとりの個性や強みを生かすプルアップ型の産業育成プログラムを通して、個人と民間企業が協業しながらマーケットインを果たした成功事例と言えそうです。

▲『おとまち』は、2009年にヤマハが立ち上げた、「音楽」×「まちづくり」で地域を活性化する新規事業。参加型の市民音楽祭『渋谷ズンチャカ!(2015年8月)」では、約300人が『まちなか音楽パレード』に参加し、渋谷駅前など1.4kmを練り歩いたそうです。このほか、横浜市伊勢佐木町商店街協同組合が地域活性化のためにつくった多目的イベントスペース『CROSS STREET』でのライブ、宮城県仙台市の『JSFスイングカーニバル』など・・・全国各地で展開されているとか。古くから祭りなど、多くの人を一度に魅了し、一体感を得る場に音楽は欠かせませんでした。携帯端末の普及で個人的に音楽を楽しむことが習慣化した今だからこそ、みんなで音を楽しむことが求められているようです。住民や行政関係者はもちろん、社会貢献が求められる企業、資産価値を高めたい不動産業界からも注目されているそうです。
関連記事■次の暮らしのデザイン
コメント