2009 米作り体験ワークショップ リポート Part 3: トランローグ流・給排水路の作り方&田植えの方法
photo: Kazuko TOMOYORI, Motohiro SUGITA
illustration: Uta ISOBE
text: Motohiro SUGITA
2009年5月3日(日)、約1反の田んぼにて、総勢約30名で田植えを行いました。
2008年夏に、桑の木が茂り、ススキとクズがはびこる荒れ地を開墾し、秋から春に掛けてトラクターで耕運するところから始まった田んぼ作りですが、今回は「トランローグ流・給排水路の作り方」と、同じく「トランローグ流・20人以上の素人が楽しみながら手で植える田植えの方法」についてリポートします。
下図を参照しながら解説します。
環境条件や目的が変われば、方法も異なります。ご了承ください。
1)地元用水組合が管理し、近くの堰(貯水池)からポンプで水を引き込むための南側(図面・上)の共同用水は、使用しないことに決めた。地元用水組合には使用許可をいただいたが、水の流れが悪く、なかなか貯まらないとのことだった。因に、田んぼを借りるために私たちは、地主、地元農業委員会(役場内)、区長、用水組合長、地域の用水組合役員に挨拶し、許可を得た。私たちは、住環境保全に取り組んではいるが、田んぼについてはド素人。
2) そこで、常に豊富な雨水が流れる西側(図面・右上)のU字溝から雨水を引き込むことにした。もちろん雨水は無料。しかも、田んぼよりも上流には人家が無く、現在使われている田んぼも1枚だけなので、とてもきれいな水だ。また、山の地表を流れ、地中から湧き出た水は、養分も豊富に違いない。有機&無農薬の米作りを目指す私たちには、願ったり叶ったりの条件だ。なお、用水組合にはU字溝の維持管理を含めた協力金を支払う必要がある。維持管理は住環境保全に欠かせない。喜んで協力したい。
3) 西側(図面・右上)のU字溝には、かつて地主が作った給水用の塩ビパイプが組み込まれていたので、これを活用させていただいた。
(●写真)西側(図面・右上)のU字溝に土のうを置いて水を貯め、塩ビパイプの給水口から田んぼに水を流し込む。土のうは、2段以上積み上げても流されてしまうので1段のみに。
(●写真)写真上は、塩ビパイプの給水口。ここから田んぼに水を流し込む。写真下は、穴を空けた塩ビパイプの先端用キャップ。これを給水口に被せて田んぼに流し込む水量を調整する。
4) しかし、西側(図面・右)のU字溝から水を引き込むだけでは、10年以上使われておらず、しかも乾燥した4月第3週の休耕田に水を貯めるには水量が足らず、なかなか貯まらなかった。
5) そこで、北側(図面・左下)のU字溝に板を落としてダムを作り、塩ビパイプで田んぼまで水を引き込んだ。塩ビパイプは直径40mm規格。ダムから田んぼまで地形に合わせ、長さ4mのパイプを6本と長さ1mのパイプ2本を組み合わせた。ダムから田んぼまでの高低差は、目測50cm程度。パイプ同士はジョイント・パーツで繋いだが、パイプの目詰まり等のメンテを考えて一方だけを接着し、一方は取り外し可能な状態にした。また、ダムから田んぼまで均等な傾斜でスムースに水を流すため、パイプのつなぎ目の辺りを竹の棒で支えた。これは、当初応急処置として角材で支えていたところ、トラクターで田んぼを耕運していただいたシルバー人材センターの東条さんが追加してくれた優れもの。
(●写真)U字溝の水門用レール・ガイドに板を落として雨水を貯めるダムを作った。板を円形にくり貫いて塩ビパイプを差し、雨水を田んぼへと誘導。板は土のうで押さえた。土のうは、2段以上積み上げても流されてしまうので1段のみに。板は20cmくらいの高さにし、雨が降って水位が上がると上から溢れるようにした。下流の田んぼでも同様の仕掛けができるように配慮。
(●写真)ダム(写真手前)から田んぼ(写真奥)へ延ばした塩ビパイプの給水路。
(●写真)ジョイント・パーツで繋いだ塩ビパイプ。繋ぎ目が弛んで外れないように竹で支えた。1、2週間に一度ジョイントを外し、パイプ内の目詰まりをチェック&メンテ。
(●写真)写真左上は、ダムから田んぼに給水する塩ビパイプ。写真左下は、田んぼから溢れる水を排水する塩ビパイプで、かつて地主が土地改良を目的に暗渠排水設備を施工した際に設置したもの。田んぼの地面から5〜10cmくらい水が貯まると溢れるように調整。写真右上の青いハンドルは、暗渠排水開閉ハンドルで、その写真下のU字溝の穴から排水する。
(●写真)塩ビパイプ先端。ネジ式のキャップで閉じて水量を調整する。
(●写真)写真上の畦波板シートの一部から田んぼの水が溢れて写真下の塩ビパイプの排水路に流れ込む仕掛け。排水路は以前地主が設置したモノ。地面の高い南側と低い南側のそれぞれに、まんべんなく水が貯まり、高さの低い畦から溢れ出さないように、畦波板シートの一部を調度よい高さにしてある。
6) 西側(図面・右)と北側(図面・左下)の2箇所から水を引き込むと、数日後に雨が降り、一気に田んぼいっぱいに水が貯まった。一度田んぼに水が貯まってしまえば、その後は少量の水を流し込むだけで枯れることはない。
7) 近隣の話では「この地域の土壌は、代掻きをした後、5日程で水が澄んでくる」とのことで、5月3日(日)の田植えに合わせ、1週間前の4月26日(日)にシルバー人材センターの東条さんにトラクターで代掻きをしていただいた。水を張って平らになった田んぼは、感動的に美しかった。
■田植えまでの経緯
4月1日(水):地主と共に役場内に設置された農業委員会を訪ね、田んぼの貸借覚え書きを交わす。その後、農業委員会で承認され、2カ月後に貸し主、借り主双方に控えが郵送されて来た。また、前用水組合長から北側(図面・左下)の塩ビパイプによる給水についてアドバイスいただく。
4月4日(土):区長、用水組合長、地域の用水組合役員に挨拶し、用水と排水溝(U字溝)の利用許可を得る。
4月5日(日):西側(図面・右)の給水口からのみ給水開始。
4月12日(日):田んぼ周囲の畦への水の浸透を防ぐ畦波板シートを、田んぼの周囲約150mに渡って設置。畦波板シートは、本来排水路と隣接する箇所にのみ設置すれば充分とのこと。
4月13日(月):西側(図面・右)の給水口からのみの給水で1/3ほど水が貯まった段階で降雨があり、耕運と第1回目の代掻きを兼ねて、シルバー人材センターの東条さんに耕していただく。ある程度水が貯まった段階で代掻きを行い、土を泥にしないと、モグラの穴や草の根の穴から、せっかく貯まった水が漏れてしまう。泥は穴に流れ込んで穴を塞ぐ。
4月19日(日):北側(図面・左下)の給水口からも給水開始。
4月22日(水):降雨により、ようやく田んぼいっぱいに水が貯まる。人材センターの東条さんにトラクターで代掻きをしていただく。しかし、土は均等に平らにならなかった。
4月26日(日):土を均等に平らにするため、最後の代掻きを行い、仕上げていただいた。耕運&代掻きは全3回6往復で35,500円(人件費+トラクター使用料)。決して安価ではないが、費用対効果を考えれば、トラクターを買って自分で耕すことなど言語道断。また、2年目の来年以降は耕運&代掻きの回数も少なくなる見込み(切望)。
5月3日(日):田植え。
■トランローグ流・田植えの方法
(●写真)田植えの様子。真ん中から前後に分かれて苗を植えた。写真下は、昔ながらの田んぼの定規を使った手植え。
1) 田んぼ東側(図面左側)の両端に杭を差して縄を張る。縄はシュロなど園芸用の耐水性のある丈夫な縄を利用。
2) 田んぼの間口プラス・アルファの長さの縄の両端に杭を結ぶ。この縄に7寸5分間隔で麻紐等、結びやすい太さの紐で結び目を作る。この結び目は、苗を植える目印となる。なお、7寸5分間隔としたのは、近隣農家で機械化以前に使用していた田植え用定規の間隔が7寸5分だったため。
3) 田んぼの中央、1)で張った縄の直近の地面に、2)で作った縄の一方の杭を差し、1)の縄と2)の縄が直角になるように2)の縄を田んぼの東側対岸まで張って杭を地面に差す。
4) 3)で田んぼの上に張った縄から1尺間隔を空けて2本目の縄を1本目の縄と平行に張る。1尺の間隔は、尺棒を当てて目安とする。尺棒は1寸角ほどの角材を使い、合計4本を準備する。なお、1尺間隔としたのは、人が苗と苗の間を歩きやすい間隔。機械で植える場合、間隔はもっと短い。
5) 3)4)で張った最初の2本の縄を目印に苗を植える。これは、大勢で苗を植えるための準備作業。
6) 苗は、2)で作った結び目を目印に、苗を持った手の第2間接まで沈むようにしっかりと土に差す。また、苗がまっすぐに立ち上がり、倒れないように根とその周りの土に隙間を作らないようにするのがコツ。
7) 最初の2本の縄を目印として苗を植え終わったら、東側(図面左側)の2本の尺棒を1)の縄上で、それぞれ反対方向に移動する。西側(図面右側)でも同様に2本の尺棒を移動する。
8) 7)で移動した尺棒を目安に2本の縄を移動し、縄がたわんで田んぼの水に沈まないようにピンと張り、両端の杭を地面に差す。
9) 2本の縄の中に前後2列になって入り、それぞれ反対方向に背を向けて並び田植えを行う。人と人の間隔は、人が左右に手を伸ばして届く1.5m程度。
10) 以下、尺棒と縄の移動を繰り返し、田んぼの両端までしっかりと苗を植える。田んぼの端に苗を植えない空きスペースを作ってしまうと、雑草が蔓延る隙を与えてしまう。稲が根を張れば、雑草も育ちにくい。
以上、2列20人で約1反(300坪=990平米)の田植えを約2時間で終了。
2時間の作業ではちょっと物足りない、という声も聞かれました。
この後の除草、稲刈り、脱穀ワークショップの作業量と疲労度、そして掛かるコストを見て、来年以降に挑戦する田んぼの面積について検討していきたいと考えています。
しかし「楽しみながら住環境保全!」が目的の一つであることを考えれば、住環境が荒れないよう、できる限りチャレンジしていきたいと思います。
なお、田んぼの中央から田植えを始めたのは、両端まで苗を揃えて植えられるので美しく、20、30人くらいのイベントとして楽しい雰囲気が出ると考えたため。両端からスタートすると真ん中で2列が出会い、畦に上がりにくい、という理由もありました。もし、参加者が40人以上集まれば、田んぼの長手方向1列に並んで端から端へ向かう方法もあります。40人×1.5m間隔で、1列60mで田植えができます。
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